日本の「型」文化
日本には「型」を重んじる文化が根付いています。茶道では点前の所作に、武道では基本動作に、製造業では標準化された作業手順に、それぞれに「型」があります。技を習得するために、理屈より先にまずは師匠のカタチ=「型」を真似ることから始めるのです。私たち日本人にとって、馴染み深いやり方ではないでしょうか。「型」は、 先人の知恵を継承し、技術と精神性を高めていくための有効な手段として機能してきました。
真似ることの落とし穴
残念なことに、このマインドセットがスキー技術習得の過程においては、必ずしも効果を発揮するとは言えません。日本のスキー上達法では、理想とされる滑りの形を模倣することに重点が置かれ、動作を細分化して個々の動きを型として取り込もうとする傾向があります。端的に言うと、お手本を真似るのです。このやり方でスキー上達を目指してもなかなか良い結果は得ることは難しいでしょう。なぜならお手本の動きを真似る者は、お手本の全ての動きを自発的な運動と捉えてしまうからです。実際の滑走では環境からの要請に応じて身体が反応しているにもかかわらず、それを意図的な動作の組み合わせとして解釈してしまうのです。
環境との対話から生まれる動き
実際の滑り手の動きは違います。斜面の傾斜、雪の質、スピード、地形の変化…様々な条件との関係の中で、滑走中の動きは生まれます。滑り手の動きは「意図的な動作の集合」ではなく、「環境との対話の結果」なのです。
シンプルな真実
上手な滑り手の動きを観察し、それを型として真似ることで上達を目指すのは、スキーという運動の本質を見誤ることになります。実際の滑り手の運動は、私たちが観察から得られると思っている複雑な動きの組み合わせよりも、ずっと少ない要素で成り立っています。環境との対話から生まれる運動は、見た目よりもはるかにシンプルなのです。